EPISODE 02

はじめてのお友だち

Luminus Archive

しるふぁは、大きな門のまえで、立ちすくんでいた。

白い石の門は、見上げるほど、高い。

門のむこうには、広い中庭と、白い校舎がならんでいる。

空中を、光の粒が、すうっ、すうっ、と飛んでいく。一つひとつが、いろんな色のルミだった。

生徒たちが、たくさん歩いている。

みんな、きれいな制服をきて、胸をはって歩いていた。

肩や頭に、それぞれのルミをのせている子もいる。

しるふぁは、ちいさなためいきをつく。

「……すごい」

肩のピコも、目をまるくして、きょろきょろしている。

しるふぁは、自分の服を見おろした。

おばあちゃんが洗ってくれた、ただの綿のワンピース。

あたりの、はなやかな制服とは、ぜんぜんちがう。

——わたし、場ちがい、かもしれない。

足が、すくんだ。

「ちょっとちょっと!」

うしろから、はじけるような、声がした。

ふり返ると、オレンジ色のおだんごヘアの女の子が、にかっと笑って立っていた。

そばかすのある、ひとなつこい顔。

その足もとで、リスみたいな小さなルミが、ちょこちょこと走りまわっている。

「あなた、新入生? まいご?」

「え、あ、えっと……」

「あはは、かおまっかだよ! わたし、ティナ。ティナ・マルシェ。よろしくね!」

ティナは、返事を待たずに、しるふぁの手を、ぎゅっ、と取った。

「きょうから、この学園の子だよね? じゃあ、あんないしてあげる!」

「あ、あの、わたし——」

「しるふぁちゃん、でしょ? 編入生がくるって、きいてた! すごい、ほんとに来た!」

ティナは目をきらきらさせている。

しるふぁは、思わず小さく笑ってしまった。

「……よろしく、おねがいします」

肩のピコが、ぴぃっと鳴いた。

リスのルミも、ちょこんと後ろあしで立って、ちっちっ、と挨拶をかえす。

「その子、ポポっていうの」

「ポポちゃん……」

「わたしのパートナー。よろしくね、ピコちゃん!」

ピコとポポは、おたがいにちょんっと鼻先をふれあわせた。

しるふぁの胸が、さっきまでより、ほんの少しだけゆるんだ。

ティナは、しるふぁの手をひいて、学園のなかを案内してくれた。

中庭には、大きなふん水があった。水しぶきに光があたって、小さな虹ができている。

「ここがいちばんのおきにいり! お昼ここでおべんとう食べるの、最高なんだよ」

「きれい……」

「でしょ?」

ティナは、すれちがう生徒みんなに「おはよー!」と声をかけている。

相手が上級生でも、下級生でも、おなじ調子で。

——すごい、このひと。

しるふぁには、とてもできないな、と思った。

「こっちは……上のほうの教室。きれいでしょ?」

「わぁ……」

「で、こっちが、わたしたちの教室」

しるふぁは、ふたつの廊下を、そっと、見くらべた。

えっと、………ちょっと、ちがう、かな?

ティナは、ちょっとだけ肩をすくめて笑った。

「まあ、ちょっとちがうんだよね、いろいろ。でも、わたしは気にしてないよ!」

しるふぁは、ちいさく、うなずいた。

けれど、胸のおくが、ちょっとだけ、ちくっとした。

——……本当に、そうなのかな?

おばあちゃんの言葉が、ふっと、頭のなかに浮かんだ。

しるふぁは、そっと、ペンダントに指でふれた。

お昼の食堂。

しるふぁとティナは、おぼんを持って、席をさがしていた。

まんなかの、日あたりのいい席には、きれいな制服を着た生徒たちがすわっている。

壁ぎわの、すみっこの席に、下級生の子たちが、小さくなって、食事をしていた。

ふしぎな、見えない線が、食堂のまんなかに引かれているようだった。

そのとき、ひとりの下級生の女の子が、空いている中央の席に、おそるおそる座ろうとした。

その場の空気が、ぴたっ、と止まった。

中央にすわる上級生たちの、冷たい視線。

「……そこ、あなたの席じゃないでしょう」

上級生のひとりが、つめたく言いはなった。

「ご、ごめんなさい……」

下級生の、その女の子は、おぼんを持って、逃げるようにすみっこの席へもどっていった。

そのパートナーのルミが、ちぢこまって、女の子の肩でふるえていた。

しるふぁは、うごけなかった。

なにか言いたかった。

でも、言葉は、のどの奥でつまっていた。

ティナは、ちらっとしるふぁの横顔を見て、そっと言った。

「……ね、こっち座ろ」

ティナはしるふぁの手を取って、すみっこの、あたたかい日だまりの席にあんないしてくれた。

しるふぁは、しばらく、お皿のパンを見つめていた。

——あの子、わるいことしたのかな。

——ただ、お日さまのあたるところで、ごはんを食べたかっただけなのに。

ピコが、しるふぁのほっぺにすり、と身をよせた。

「……ピコ」

しるふぁは、ピコにだけ聞こえるくらいの、小さな声でつぶやいた。

「……本当に、そうなのかな」

何が、とは言えなかった。

でも、なにかが、ちがうような気がした。

ティナは、その声はきこえなかったみたいだったけど、しるふぁの横顔をじっと見て、それから、いつもより少しだけ静かな声で言った。

「……しるふぁって、やさしいんだね」

しるふぁは、おどろいて顔をあげた。

「え」

「目、かなしそう。まるで、じぶんのこと、みたいに」

ティナは、ほほえんで、自分のパンを半分、しるふぁのお皿にのせた。

「たまごやき、わけてあげる…おいしいよ!」

しるふぁの目が、じんわりと、あつくなった。

「……ありがとう」

その夜。

偶然にも、ティナとしるふぁは、おなじ部屋のルームメイトになった。

「うれしい〜! しるふぁと一緒のへや!最高だよねー!」

ティナは、ベッドのうえでごろんごろん転がっている。ポポもつられて、ぽんぽんと跳ねている。

しるふぁは、窓ぎわの机にすわって、小さなランプの明かりのなかで、カバンから革表紙のノートを取りだした。

おばあちゃんが、持たせてくれたものだった。

「なにか、書きたくなったら、書くといいよ」って。

しるふぁは、しばらく、白いページを見つめていた。

そして、ゆっくりと、ペンを走らせた。

「おかあさんへ。
きょう、がくえんにつきました。
ティナちゃんというおともだちが、できました。
とっても、あかるくて、やさしい子です。
でも——」

しるふぁは、ペンをとめた。

窓の外、星がひとつ、またたいていた。

「でも、おかあさん。
ちょっとだけ、さみしい『かべ』を、見つけた気がします。
おかあさんがここにいたころも、こんなふうだったのかな」

ピコが、ノートのうえにちょこんとのって、しるふぁを見あげる。

ちいさく、ぴぃ、と鳴いた。

しるふぁは、ピコの頭を、そっとなでた。

「おやすみ、ピコ」

ぴぃっ。

しるふぁは、ノートをそっと閉じて、ベッドにもぐりこんだ。

となりのベッドから、ティナの声がした。

「しるふぁー、あした、じゅぎょうたのしみだねー」

「……うん。たのしみだね」

小さな、あたたかい居場所が、ひとつ、できた夜だった。

——第2話 つづく——