EPISODE 02

はじめてのお友達

Luminus Archive
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背景 セント・ルミナス学園・正門前。白亜の石づくりの大きな門。彫刻で「光の雫」と「鳥」の意匠。門のむこうに、緑の中庭と白い校舎。背景の空は明るい青、雲は薄く流れる。
照明 午前の光。石の壁が白くかがやく。
BGM 弦楽四重奏。華やかで、少し緊張した旋律。
SE 遠くで鐘の音。たくさんの足音、生徒たちの声。光の粒が空中を飛ぶ、かすかな「しゃらん」という音。

しるふぁは、大きな門のまえで、立ちすくんでいた。

白い石の門は、見上げるほど高い。

門のむこうには、広い中庭と、白い校舎がならんでいる。

空中を、光の粒がすうっ、すうっと飛んでいく。一つひとつが、いろんな色のルミだった。

生徒たちが、たくさん歩いている。

みんな、きれいな制服を着て、胸をはって歩いていた。

肩や頭に、それぞれのルミをのせている子もいる。

SE しるふぁの、かすかな息の音。

「……すごい」

肩のピコも、目をまるくして、きょろきょろしている。

しるふぁは、自分の服を見おろした。

おばあちゃんが洗ってくれた、ただの綿のワンピース。

あたりの、華やかな制服とは、ぜんぜんちがう。

——場ちがい、かもしれない。

足が、すくんだ。

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SE ぱたぱたっ、という元気な足音が近づく。

「ちょっとちょっと!」

うしろから、はじけるような声がした。

ふり返ると、オレンジ色のショートヘアの女の子が、にかっと笑って立っていた。そばかすのある、ひとなつこい顔。

その足もとで、リスみたいな小さなルミが、ちょこちょこと走りまわっている。

「あなた、新入生? まいご?」

「え、あ、えっと……」

「あはは、かおまっかだよ! わたし、ティナ。ティナ・マルシェ。よろしくね!」

ティナは、返事を待たずに、しるふぁの手をぎゅっと取った。

「きょうから、この学園の子だよね? じゃあ、あんないしてあげる!」

「あ、あの、わたし——」

「しるふぁちゃん、でしょ? 編入生がくるって、きいてた! すごい、ほんとに来た!」

ティナは目をきらきらさせている。

しるふぁは、思わず小さく笑ってしまった。

「……よろしく、おねがいします」

肩のピコが、ぴぃっと鳴いた。

リスのルミも、ちょこんと後ろあしで立って、ちっちっ、と挨拶をかえす。

「その子、ポポっていうの」

「ポポちゃん……」

「わたしのパートナー。よろしくね、ピコちゃん!」

ピコとポポは、おたがいにちょんっと鼻先をふれあわせた。

しるふぁの胸が、さっきまでの固さから、ほんの少しだけゆるんだ。

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背景 中庭。噴水、花壇、石畳の道。生徒たちが歩いている。上級生らしき子はきれいな制服、下級生はシンプルな制服。
照明 午前の光。木々の葉からの木もれ日。
BGM さっきよりやわらかい、やさしい旋律に変わる。
SE 噴水の水音。葉ずれの音。

ティナは、しるふぁの手をひいて、学園のなかを案内してくれた。

中庭には、大きな噴水があった。水しぶきに光があたって、小さな虹ができている。

「ここがいちばんのおきにいり! お昼ここでおべんとう食べるの、最高なんだよ」

「きれい……」

「でしょ?」

ティナは、すれちがう生徒みんなに「おはよー!」と声をかけている。

相手が上級生でも、下級生でも、おなじ調子で。

——すごい、このひと。

しるふぁには、できないことだった。

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背景切り替え 教室棟・上位クラスの廊下。きれいな大理石の床、高い天井、ステンドグラス。ふかふかの絨毯。
照明 ステンドグラスからの色とりどりの光。
SE ひそひそ話の声。足音が絨毯に吸い込まれる感じ。

「こっちは……上のほうの教室。きれいでしょ?」

「わぁ……」

背景切り替え 教室棟・下位クラスの廊下。木の床、素朴な白い壁、飾りけはない。窓からまっすぐな陽ざし。
SE 子どもたちの元気な笑い声。

「で、こっちが、わたしたちの教室」

しるふぁは、ふたつの廊下を、そっと見くらべた。

ぜんぜん、ちがう。

ティナは、ちょっとだけ肩をすくめて笑った。

「まあ、ちょっとちがうんだよね、いろいろ。でも、わたしは気にしてないよ!」

しるふぁは、ちいさく、うなずいた。

けれど、胸のおくが、ちょっとだけ、ちくっとした。

——……本当に、そうなのかな?

おばあちゃんの言葉が、ふっと、頭のなかに浮かんだ。

しるふぁは、そっと、ペンダントに指でふれた。

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背景 食堂。広い空間、長いテーブルがならぶ。窓からの陽ざし。きれいに盛りつけられた料理。
照明 お昼の明るい光。けれど、場の空気のせいで、どこか冷たい感じも。
BGM さっきまでの明るい旋律がすっと消える。環境音のみ。
SE 食器の音。生徒たちのざわめき。

お昼の食堂。

しるふぁとティナは、おぼんを持って、席をさがしていた。

中央の、日当たりのいい席には、きれいな制服を着た生徒たちがすわっている。

壁ぎわの、すみっこの席に、下のクラスの子たちが、小さくなって食事をしていた。

ふしぎな、見えない線が、食堂のまんなかに引かれているみたいだった。

SE ガタッ、と椅子の音。

そのとき、ひとりの下級生の女の子が、空いている中央の席に、おそるおそる座ろうとした。

その場の空気が、ぴたっ、と止まった。

カメラ 中央にすわる上級生たちの、冷たい視線。

「……そこ、あなたの席じゃないでしょう」

上級生のひとりが、しずかに、けれど、つめたく言った。

「ご、ごめんなさい……」

女の子は、おぼんを持って、逃げるようにすみっこの席へもどっていった。

そのパートナーのルミが、ちぢこまって、女の子の肩でふるえていた。

SE しるふぁの、息をのむ、かすかな音。

しるふぁは、うごけなかった。

なにか言いたかった。

でも、言葉は、のどの奥でつまっていた。

ティナは、ちらっとしるふぁの横顔を見て、そっと言った。

「……ね、こっち座ろ」

ティナはしるふぁの手を取って、すみっこの、あたたかい日だまりの席にみちびいてくれた。

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しるふぁは、しばらく、お皿のパンを見つめていた。

——あの子、わるいことしたのかな。

——ただ、お日さまのあたるところで、ごはんを食べたかっただけなのに。

カメラ しるふぁの手もと。パンを小さくちぎる指先。手がかすかにふるえている。

ピコが、しるふぁのほっぺにすり、と身をよせた。

「……ピコ」

しるふぁは、ピコにだけ聞こえるくらいの、小さな声でつぶやいた。

「……本当に、そうなのかな」

何が、とは言えなかった。

でも、なにかが、ちがうような気がした。

ティナは、その声はきこえなかったみたいだったけど、しるふぁの横顔をじっと見て、それから、いつもより少しだけ静かな声で言った。

「……しるふぁって、やさしいんだね」

しるふぁは、おどろいて顔をあげた。

「え」

「目、かなしそう。あの子のかわりに」

ティナは、ほほえんで、自分のパンを半分、しるふぁのお皿にのせた。

「たまごやき、わけてあげる。おばあちゃんがやいたやつ。おいしいよ」

しるふぁの目が、じんわりと、あつくなった。

「……ありがとう」

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背景 寮の部屋。ふたつベッド、木の机ふたつ、窓から夜の中庭が見える。机にはランプ、小さな花瓶にのげし。
照明 ランプのあたたかい光。窓のそとは深い藍色。星が見える。
BGM 1話の居間とおなじ「やわらかな夜」の旋律、しずかに。
SE 風が窓のそとをそっと通る音。遠くで、だれかのわらい声。

その夜。

偶然にも、ティナとしるふぁは、おなじ部屋のルームメイトになった。

「うれしい〜! しるふぁと一緒だなんて、きょう最高の日になった!」

ティナは、ベッドのうえでごろんごろん転がっている。ポポもつられて、ぽんぽんと跳ねている。

しるふぁは、窓ぎわの机にすわって、小さなランプの明かりのなかで、カバンから革表紙のノートを取りだした。

おばあちゃんが、持たせてくれたものだった。

「なにか、書きたくなったら、書くといいよ」って。

しるふぁは、しばらく、白いページを見つめていた。

そして、ゆっくりと、ペンを走らせた。

カメラ ノートのページに、少し丸い字で、ていねいに書かれていく文字。

「おかあさんへ。
きょう、がくえんにつきました。
ティナちゃんというおともだちが、できました。
とっても、あかるくて、やさしい子です。
でも——」

しるふぁは、ペンをとめた。

窓の外、星がひとつ、またたいていた。

「でも、おかあさん。
ちょっとだけ、さみしい『かべ』を、見つけた気がします。
おかあさんがここにいたころも、こんなふうだったのかな」

SE ピコがちいさく、ぴぃ、と鳴く音。

ピコが、ノートのうえにちょこんとのって、しるふぁを見あげた。

しるふぁは、ピコの頭を、そっとなでた。

カメラ 窓辺。ピコとポポが、そっと寄りそって眠っている。
エフェクト しるふぁのペンダントが、ふっと、一瞬だけ、ほのかに光る。

「おやすみ、ピコ」

ぴぃっ。

しるふぁは、ノートをそっと閉じて、ベッドにもぐりこんだ。

となりのベッドから、ティナの声がした。

「しるふぁー、あした、じゅぎょうたのしみだねー」

「……うん。たのしみだね」

小さな、あたたかい居場所が、ひとつ、できた夜だった。

BGM やさしく収束。
フェードアウト 
——第2話 つづく——