EPISODE 01

ひかりをはこぶ小鳥と、わたしのちいさな一歩

Luminus Archive

丘のうえのちいさな家。しるふぁは、おばあちゃんと二人で暮らしていた。

町から少し離れた、静かなところ。庭には花が咲いていて、朝には小鳥が水を飲みにやってくる。

しるふぁは、あまりおしゃべりが得意ではない。お友達もすくない。でも、花の世話をしたり、小鳥にパンくずをあげたりしているときが、いちばん好きだった。

「しるふぁ、お茶が、はいったわよ」

「……はい、おばあちゃん」

しるふぁの首には、お母さんの形見の、ペンダントが下がっている。

銀色の、小さなしずくのかたち。

お母さんは、しるふぁが小さいころにいなくなってしまった。

どうしていなくなったのか、おばあちゃんは教えてくれない。

——ただ、ときどきこう言う。

「お母さんはね……いちばん大切なものが、いつも見えていた人だったのよ」

しるふぁには、その言葉の意味が、まだよくわからなかった。

その日の夕方。

羽をけがした小鳥が草のかげで震えているのを見つけた。

「……あ」

しるふぁは、そっとしゃがんだ。

手をのばそうとして、やめた。こわがらせてしまうかも、しれない。

少しのあいだ、じっと見つめてみた。

小鳥も、しるふぁを見つめていた。

「……だいじょうぶ。こわくないよ」

やっと、小鳥はしるふぁの指にとまった。

しるふぁは、その小さな体を、そっと、すくいあげた。

——そのときだった。

胸もとのペンダントが、ふわっと、淡い光をこぼした。

「え……?」

光のつぶが、ぽろぽろ、と、こぼれおちる。

そのつぶが、しるふぁの手の中で、くるくると、回って——

「ぴぃっ」

小さな、光でできた小鳥になった。

しるふぁは息をのんだ。

光の小鳥は、しるふぁの肩に、ちょこん、と、とまり、

ほっぺにすりすりと、顔をよせてくる。

「あなた……どこから……?」

光の小鳥は、しるふぁの目をのぞきこんだ。

その目は、なんだか、

ずっと前から知っている誰かに会えたような、

そんな目だった。

しるふぁは、この子を「ピコ」と名づけた。

夜。

おばあちゃんは、しるふぁの肩にとまっているピコを見て、ほんの少しだけ、さびしそうに笑った。

「……そう。あなたのところに来たのね」

「おばあちゃん、この子、なに……?」

おばあちゃんは、お茶を一口のんで、ゆっくりと話しはじめた。

「ルミ、っていうの。光の、ちいさな友だち。……お母さんと、ずっといっしょにいた子の、子どもよ」

「お母さんの……」

「お母さんはね、あの学園にいたの。セント・ルミナス学園。いろんな子が、ルミと一緒に勉強するところ」

しるふぁは、ペンダントを、ぎゅっ、と、にぎった。

——お母さんのいた、ばしょ。

——お母さんが見ていた、けしき。

気がつくと、しるふぁは顔をあげていた。

「おばあちゃん。わたし……学園に行きたい」

おばあちゃんは、しばらく目を閉じて、

やがて、しずかにうなずいた。

「……いってらっしゃい」

そしてこう、付けくわえた。

「しるふぁ。ひとつだけ、おぼえておいてね」

「……うん」

「みんなが、ただしいって言うことでも、『本当にそうかな?』って、自分の心に聞いてごらんなさい。お母さんは、いつもそうしてた人だから」

しるふぁは、その言葉を、むねのおくに、そっとしまった。

意味はまだ、よくわからなかった。でも、大切な言葉だということは、すぐにわかった。

次の朝。

小さなカバンをひとつ持って、しるふぁは家を出た。

ピコは肩にとまって、そわそわしている。

ふり返ると、おばあちゃんが手をふっていた。

「……いってきます」

歩きだして、少しだけ立ち止まる。

むねのペンダントが、朝の光をうけて、ふわっ、とあわく光った。

その光のなかで、しるふぁには、ほんの一瞬——

手をふるおばあちゃんの姿が、涙をこらえているように見えた。

いつものおばあちゃんの笑顔の、奥にあるもの。

表では見えない、ほんとうのきもち。

涙がこみ上げてきた。

でも、前を向いた。

母親がみた、おなじ景色を見るために。

「……ピコ、いこう」

ぴぃっ、とピコが鳴いた。

まるで「だいじょうぶだよ」と言っているみたいに。

お母さんが歩いたかもしれない道を、

今度は、しるふぁが自分の足で歩いていく。

小さな、けれどたしかな一歩だった。

——第1話 つづく——