ひかりをはこぶ小鳥と、わたしのちいさな一歩
Luminus Archive丘のうえのちいさな家。しるふぁは、おばあちゃんと二人で暮らしていた。
町から少し離れた、静かなところ。庭には花が咲いていて、朝には小鳥が水を飲みにやってくる。
しるふぁは、あまりおしゃべりが得意ではない。お友達もすくない。でも、花の世話をしたり、小鳥にパンくずをあげたりしているときが、いちばん好きだった。
「しるふぁ、お茶が、はいったわよ」
「……はい、おばあちゃん」
しるふぁの首には、お母さんの形見の、ペンダントが下がっている。
銀色の、小さなしずくのかたち。
お母さんは、しるふぁが小さいころにいなくなってしまった。
どうしていなくなったのか、おばあちゃんは教えてくれない。
——ただ、ときどきこう言う。
「お母さんはね……いちばん大切なものが、いつも見えていた人だったのよ」
しるふぁには、その言葉の意味が、まだよくわからなかった。
その日の夕方。
羽をけがした小鳥が草のかげで震えているのを見つけた。
「……あ」
しるふぁは、そっとしゃがんだ。
手をのばそうとして、やめた。こわがらせてしまうかも、しれない。
少しのあいだ、じっと見つめてみた。
小鳥も、しるふぁを見つめていた。
「……だいじょうぶ。こわくないよ」
やっと、小鳥はしるふぁの指にとまった。
しるふぁは、その小さな体を、そっと、すくいあげた。
——そのときだった。
胸もとのペンダントが、ふわっと、淡い光をこぼした。
「え……?」
光のつぶが、ぽろぽろ、と、こぼれおちる。
そのつぶが、しるふぁの手の中で、くるくると、回って——
「ぴぃっ」
小さな、光でできた小鳥になった。
しるふぁは息をのんだ。
光の小鳥は、しるふぁの肩に、ちょこん、と、とまり、
ほっぺにすりすりと、顔をよせてくる。
「あなた……どこから……?」
光の小鳥は、しるふぁの目をのぞきこんだ。
その目は、なんだか、
ずっと前から知っている誰かに会えたような、
そんな目だった。
しるふぁは、この子を「ピコ」と名づけた。
夜。
おばあちゃんは、しるふぁの肩にとまっているピコを見て、ほんの少しだけ、さびしそうに笑った。
「……そう。あなたのところに来たのね」
「おばあちゃん、この子、なに……?」
おばあちゃんは、お茶を一口のんで、ゆっくりと話しはじめた。
「ルミ、っていうの。光の、ちいさな友だち。……お母さんと、ずっといっしょにいた子の、子どもよ」
「お母さんの……」
「お母さんはね、あの学園にいたの。セント・ルミナス学園。いろんな子が、ルミと一緒に勉強するところ」
しるふぁは、ペンダントを、ぎゅっ、と、にぎった。
——お母さんのいた、ばしょ。
——お母さんが見ていた、けしき。
気がつくと、しるふぁは顔をあげていた。
「おばあちゃん。わたし……学園に行きたい」
おばあちゃんは、しばらく目を閉じて、
やがて、しずかにうなずいた。
「……いってらっしゃい」
そしてこう、付けくわえた。
「しるふぁ。ひとつだけ、おぼえておいてね」
「……うん」
「みんなが、ただしいって言うことでも、『本当にそうかな?』って、自分の心に聞いてごらんなさい。お母さんは、いつもそうしてた人だから」
しるふぁは、その言葉を、むねのおくに、そっとしまった。
意味はまだ、よくわからなかった。でも、大切な言葉だということは、すぐにわかった。
次の朝。
小さなカバンをひとつ持って、しるふぁは家を出た。
ピコは肩にとまって、そわそわしている。
ふり返ると、おばあちゃんが手をふっていた。
「……いってきます」
歩きだして、少しだけ立ち止まる。
むねのペンダントが、朝の光をうけて、ふわっ、とあわく光った。
その光のなかで、しるふぁには、ほんの一瞬——
手をふるおばあちゃんの姿が、涙をこらえているように見えた。
いつものおばあちゃんの笑顔の、奥にあるもの。
表では見えない、ほんとうのきもち。
涙がこみ上げてきた。
でも、前を向いた。
母親がみた、おなじ景色を見るために。
「……ピコ、いこう」
ぴぃっ、とピコが鳴いた。
まるで「だいじょうぶだよ」と言っているみたいに。
お母さんが歩いたかもしれない道を、
今度は、しるふぁが自分の足で歩いていく。
小さな、けれどたしかな一歩だった。
——第1話 つづく——