きょうかいを、こえた、ほほえみ
Luminus Archive照明 早朝の、やわらかい水色がかった光。
BGM しずかなハープの、朝のような旋律。
SE 鳥の声。噴水の水音、さらに小さく。
アリアに、じぶんのゆめを、ことばにして、はなした朝から——
数日が、たっていた。
しるふぁのなかで、ふしぎな感かくが、ずっと、つづいていた。
アリアに、「なんだ、それは」って、わらわれたとき。
かなしくは、なかった。
むしろ、じぶんのおくにあった気もちを、はじめて、ことばにできたことへの、ほっとした気もちが、のこっていた。
——でも。
しるふぁは、ベンチにすわって、朝の中庭をながめていた。
ピコが、しずかに、しるふぁのひざにのって、ねむっている。
「じぶんの、やりたいことを、みんなが、めざせるせかい」
こうやって、くちに、出すのは、かんたんだ。
でも、この学園では。
家がらや、成績で、じゅんばんがきまる。
決闘で、つよかった子が、つぎに、すすめる。
そういうばしょ、だ。
——わたし、なにも、じっせきがない、へんにゅうせいなのに。
——そんな、ゆめを、かたっていいのかな。
しるふぁは、ピコの頭を、そっと、なでた。
「……本当に、言っちゃって、よかったのかな」
ぴぃ、と、ピコが、寝ぼけてないた。
照明 朝日。
BGM かるい、ティナの登場テーマ。
SE ぺたぺた、という足音。
「しるふぁー! ねえねえ」
ティナが、にゅっと、しるふぁの机にのぞきこんできた。
「アリアに、ゆめ、かたったんだって? どんなの? おしえて、おしえて!」
しるふぁは、ぎょっとした。
「えっ、なんで、知って……!?」
「リュシア先輩が、アリアさまからきいた、って。学園、せまいんだよー」
しるふぁは、あたふたと、説明した。
うまく、言えた気がしなかった。
でも、ティナは、ぽかんと、聞いていたあと——
ぱっと、顔が、かがやいた。
「いいじゃん、それ!」
しるふぁは、顔をあげた。
「えっ……」
「っていうか、さいこうじゃない! わたしだって、べつに、一ばんに、なりたくて、ここにいるわけじゃないし! みんなが、たのしそうにしてるのが、いちばん、でしょ!」
ティナは、にこーっ、とわらった。
「わたしの、ゆめはね」
ティナは、しるふぁのとなりにどすん、とすわった。
「みんなを、つなげる、ひとになること。
『情報通』って、よく言われるんだけどね。
ほんとうはね——みんなのあいだを、つなぐの、すきだから、やってるの」
「ティナちゃんの、ゆめ……」
「ふふ。しるふぁのと、ちょっと、にてるかも」
しるふぁは、じんわり、あたたかい気もちに、なった。
照明 木もれ日。斜めの陽ざしが、リュシアの横顔をやわらかく照らす。
BGM オルゴールの、やさしい旋律。
SE 紙をめくる音。
その日の、お昼すぎ。
しるふぁは、資料館のまえで、リュシアに、ばったり、会った。
リュシアは、古い帳面を、ぱらり、と、めくりながら、ほほえんだ。
「しるふぁちゃんの、おゆめのこと、ちょっと、きいたわよ」
「リュシアせんぱい……」
「ね、おもしろいことを、見つけたの」
リュシアは、帳面を、しるふぁに見せた。
古い、インクの文字。
「……これは?」
「この学園の、いちばん最初の、ころの、記録。
ここに、学園のりねんが書いてあるんだけど。
——しるふぁちゃん、読める?」
しるふぁは、目をこらした。
『すべての者に、光の道を』
しるふぁは、じっと、その一行を、見つめた。
「……え」
「うふふ」
リュシアは、帳面をそっと、とじた。
「この学園はね、いちばんさいしょの、ころは、『すべての者に光の道を』——みんなが、じぶんのひかりを、めざせる場所、だったの。
いつのまにかね、家がらや、成績で、わける仕組みが、つよくなっちゃって。
……それが、『いつもどおり』に、なっちゃっただけなの」
しるふぁは、その一行から、目が、はなせなかった。
「しるふぁちゃんの、ゆめは、ね——」
リュシアは、くすっ、とわらった。
「げんてん、かえり、かも、しれないわよ」
照明 窓からの、つよくもやわらかい午後の光。
BGM 環境音のみ。ぺージをめくる音、ペンの音だけ。
SE 机のきしむ音。遠くで鐘の音。
その日の、午後。
しるふぁたちは、それぞれ、べつの授業だった。
ひとり、上位クラスの自習室にいた、リヴィアは、机にむかって、しずかに、本を読んでいた。
白銀のたか——セレネが、窓辺に、しずかに、止まっている。
だれかが、ドアのまえに、立った。
リヴィアが、顔をあげる。
——下位クラスの、ちいさな女の子だった。
以前、中庭で、いじめられていたのを、しるふぁがかばった、あの子。
「あの、……ごめんなさい、わたし、ここに、来ちゃいけないのは、わかってるんです、でも……」
女の子の声は、ふるえていた。
「きょうの、じゅぎょうの、内容が、ぜんぜん、わからなくて、せんせいに、きいても、……うまく、おしえてもらえなくて。
それで、だれかに、教えてもらいたくて、……リヴィアさまなら、って」
女の子は、ぎゅっと、目をつむった。
いまにも、泣きだしそうだった。
「ごめんなさい、やっぱり、いいです。すみません、でした……」
リヴィアは、しずかに、立ちあがって、となりの椅子を、ひいた。
「……座りなさい」
リヴィアの声は、しずかだった。
つめたくも、なかった。
ふつうの、しずかな声だった。
「え、あ、あの、でも……」
「わからないところを、おしえなさい。
……時間は、すこしなら、ある、から」
女の子は、ぽかんと、していた。
信じられない、というかおで。
それから、ぼろっ、と、なみだを、こぼした。
リヴィアが、ちょっと、びっくりした。
「いや、なぜ、泣くのですか……」
「ご、ごめんなさい、うれしくて、……!」
リヴィアは、すこし、まっ赤になった。
「……いいから、本を、ひらきなさい」
女の子は、ぐすっ、と、はなをすすりながら、リヴィアのとなりに、すわった。
おしえる声は、きこえないが、唇がうごいている。
——女の子の表情が、だんだん、やわらかく、なっていく。
照明 上位クラス区域の、ステンドグラスからのひかり。
SE しるふぁと、ティナ、アリアの足音。
たまたま、通りかかった、しるふぁと、ティナと、アリア。
三人は、開いているドアのすきまから、中を、見てしまった。
ティナが、小さな声で、さけんだ。
「……う、うそでしょ。リヴィアが、下位クラスの子に、勉強、おしえてる!」
ティナの目は、まんまるに、なっていた。
「おおげさだな」
アリアは、あきれたように、言った。
「……いや、でも」
アリアも、すこし、めずらしそうに、その光景を、見ていた。
「——以前の、リヴィアなら、しなかったかも、しれないな」
しるふぁは、ただ、しずかに、ドアのむこうを、見ていた。
その目には、すこしだけ、涙が、ひかっていた。
しるふぁは、小さく、つぶやいた。
「リヴィアさんは、ほんとうに、やさしいね。」
ティナは、あわてて、なみだを、すでそっとぬぐった。
「わたし、なんか、泣きそう」
アリアが、ふっ、と、ため息のような、わらいをもらした。
「——まったく……こまったやつばかりだな。」
けれど、その声は、すこしも、いやそうでは、なかった。
照明 金色の斜光。
BGM しずかな弦楽四重奏。
SE 風の音。とおくの鐘の音。
その、夕方。
しるふぁが、ひとりで、丘のベンチに、すわっていると——
さくっ、さくっ、と、足音が、近づいてきた。
アリアだった。
いつもの、白い外とうを、肩にかけていた。
しるふぁの、となりに、なにも言わずに、すわった。
しばらく、ふたりは、だまって、夕日を、見ていた。
やがて、アリアが、しずかに、口をひらいた。
「しるふぁ」
「はい」
「——ひとつ、ききたい」
アリアの声は、ふだんよりも、しんちょうだった。
「おまえの言う、『おうえんしあえる、せかい』——
それは、競争を、否定する、ということなのか」
しるふぁは、ちょっと、考えた。
「……ううん」
しっかりと、首を、よこにふった。
「競争は、悪い、とは、思わないです。
リヴィアさんも、アリアさんも、競争のなかで、つよくなって、たくさんの人を、まもれるようになった。
それは、すごい、ことだと、思うんです」
アリアが、うなずいた。
しずかに、つづきを、まっている。
しるふぁは、じぶんの胸に、一度、手をあてた。
ペンダントが、あたたかかった。
「でもね——」
すこし、ゆっくりと、言葉を、えらんだ。
「——競争に、かてなかった、ひとが。
『もう、じぶんには、なにも、ないんだ』って。
『ねうちが、ないんだ』って。
そう、思ってしまう、せかいは、——」
しるふぁの目に、涙がにじんだ。
「——かなしいな、って、思うの」
「かつことも、だいじ。
でも、かてなくても。
じぶんの、やりたいことを、おうえんしてくれる人が、ひとりでも、いれば——
ひと、って、もういちど、立ち上がれると、思うの」
アリアは、しばらく、なにも、言わなかった。
夕日が、しずかに、しずんでいく。
やがて、アリアは、ほんの小さく、息をついた。
「……そうか」
「アリアさん?」
「……母の、言葉の、意味が、また、すこし、わかった、気がする」
アリアは、立ち上がった。
しるふぁのほうを、見ないで、ただ、夕日のほうを、むいて、言った。
「——ありがとう」
そして、しずかに、去っていった。
その、せなかは——
しるふぁには、なんだか、すこし、軽く、見えた。
照明 ランプ。
BGM 「やわらかな夜」
SE ペンの音。
その夜。
しるふぁは、日記をひらいた。
「おかあさんへ。
きょう、リヴィアさんが、下位クラスの子に、べんきょうを、おしえていました。
ちいさいけど、すごい、ことだった、と、おもう。
——ティナちゃんも、リュシアせんぱいも、アリアさんも。
わたしの、つたない、ゆめを、ちゃんと、うけとめてくれました。
『家がらで、じゅんばんが、きまるのが、ふつう』——
みんな、そう、いってたけれど。
……本当に、そうかな?
きょう、ひとり、『ちがうかも』って、おもった、わたしのおなじような子が——
学園のなかに、すこしずつ、ふえているような、気がしたんです」
「おかあさん。
『ちいさな、一ぽ』って、きっと、こういうことなんだね。
——きっと、おかあさんも。
こんな、ちいさな『一ぽ』を、どこかで、ふみだしたんでしょうか」
ピコが、日記のうえに、ちょこん、と、のった。
しるふぁは、ピコの頭を、そっと、なでた。
窓のそとの星が、ひとつ、いつもよりも、あかるく、またたいていた。
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