VOL.8 — MULTICORE Z80

「父のパソコンを超えろ。」
Z80マルチコア+トリプルVDPで描く「夢を実現する力」

はじめに——夢の実現に向けて

前回語った「夢のパソコン」。 Z80とV9990を組み合わせ、X68000のような世界をZ80で実現するという構想だった。

今回は、その夢の実現に向けた具体的な設計方針をまとめていきたい。

4つのZ80-CPUと、3つのV9990-VDPを搭載したマシンを作る。

——そう、このマシンの心臓部は、一つではない。

第1章:なぜ「4つのZ80」なのか——アーケードに学ぶ設計思想

かつてのアーケードゲーム——ゲームセンターの筐体の中身は、実はCPUが一つではなかった。 たとえば、メインのゲーム処理にMC68000を使いながら、音楽の再生には別のZ80を専用に割り当てる。 こうしてCPUに「役割分担」をさせることで、一つのCPUだけでは実現が困難な、あの滑らかな動きと迫力あるサウンドの共演を実現していた。

この発想を、今回の夢のマシンに持ち込む。 ただし、すべてをZ80で構成する

高速Z80を4つ搭載し、マルチコア・マルチスレッドで同時に動かす。 料理に例えるなら、一人のシェフがすべてを作るのではなく、4人のシェフがそれぞれ得意な料理を同時に調理する——そんなイメージだ。 一人がゲームのメインロジックを担当し、一人がグラフィックスの描画計算を受け持ち、一人がサウンドを奏で、一人がデータの読み込みを行う。 4つのZ80が息を合わせて働くことで、8ビットCPUの限界を超えた表現力が生まれる。

第2章:共有メモリ——4つの頭脳をつなぐもの

複数のCPUが同時に動くとき、問題になるのは「どうやって情報を共有するか」だ。

たとえば4人のシェフがキッチンで働くとき、冷蔵庫が一台しかなければ、誰かが食材を取り出している間、他のシェフは待たなければならない。 しかし、うまく整理された大きな冷蔵庫と、取り出しを仕切る優秀なアシスタントがいれば、4人が同時にスムーズに食材を取り出せる。

このマシンでは、メインメモリを4MB搭載する。 Z80の本来のメモリ空間は64KB——つまり、その約60倍以上の広大なメモリ空間を確保する。 さらに、各CPUごとに専用のバンク切り替えレジスタを持たせ、専用のメモリコントローラが交通整理を行う。

この設計により、どのCPUからもマルチコアを意識することなく、一つの共有メモリに自然にアクセスできる。 プログラムを書く側から見れば、まるで一つのCPUしかないかのようにシンプルに扱える。 複雑さはハードウェアが引き受け、クリエイターには見えない——Vol.6で語った「透明な道具」の哲学は、ここにも生きている。

  • CPU — 高速Z80 × 4(マルチコア構成)
  • メインメモリ — 4MB(各CPUからバンク切り替えでアクセス)
  • メモリコントローラ — 専用設計(CPUごとの独立バンクレジスタ)

さらに、FM音源や複数のV9990にも、どのZ80からも区別なくアクセスできるように設計する。 4つのCPUのうちどれからでも画面を描き換え、音を鳴らせる。 この柔軟性が、Z80の制約を可能な限り取り除きながら、その可能性を最大限に引き出す鍵となる。

第3章:トリプルVDP——3つの画面が拓く世界

ここからが、さらにユニークな部分だ。

V9990を3つ搭載して、3画面出力を可能にする。

3画面——。この言葉で、あるゲームを思い浮かべた方もいるのではないだろうか。

そう、往年のアーケード版「ダライアス」の3画面構成だ。

1986年、タイトーが送り出した「ダライアス」は、3台のモニターを横に並べた圧倒的なワイド画面で、 プレイヤーの視界を埋め尽くす広大な宇宙を描き出した。 あの体験は、ゲームセンターでしか味わえない特別なものだった。

それを、Z80で実現可能にする。

サウンド構成

音源もアーケード級の構成を目指す。

  • FM音源 — OPN(FM 3声 + PSG 3声)× 2チップ
  • PCM音源 — 1チップ

OPNを2つ搭載することで、FM 6声 + PSG 6声。 これにPCMを加えれば、ドラムやSE(効果音)を高品質なサンプリング音で鳴らしながら、 FM音源が厚みのあるメロディとベースラインを奏でる——まさに80年代後半のアーケードゲームのサウンドそのものだ。

画面モードの柔軟性

さらに、オリジナルのBIOS実装により、画面構成を自在に切り替えられるようにする。

  • 3画面モード — ダライアスのような横長ワイド構成
  • 2画面モード — Nintendo DSのような縦2画面構成
  • 1画面モード — 256色/32768色での複数背景の重ね合わせ

3つのVDPを横に並べれば、ダライアスのような横長シューティングが作れる。 縦に並べれば、Nintendo DSのように上画面がゲーム、下画面がステータス表示という構成も実現できる。 1画面に集中させれば、3つのVDPの出力を重ね合わせて、リッチな多層背景の演出が可能になる。

一つのハードウェアでありながら、BIOSの切り替えひとつで、まったく異なるゲーム体験を生み出せる。

第4章:到達点——VMからRS Studioへ、そしてその先へ

まずは、この仕様でVMを開発し、VNStudioを動かせるようにする。 Vol.5から積み重ねてきたZ80ランタイムが、ここでいよいよ本領を発揮する。

そして——

VNStudioを発展させた、シューティングゲーム版のスクリプトエンジン 「RS(RetroShooting)Studio」を作り上げる。

VNStudioが「台本を書くようにビジュアルノベルを作る」ツールだったように、 RS Studioは「台本を書くようにシューティングゲームを作る」ツールとなる。 敵の出現パターン、弾幕の軌道、ボスの行動パターン——これらをスクリプトで記述し、 Z80マルチコアのVMの上でリアルタイムに動かす。

到達点は、「ダライアスのような横3画面のオリジナルシューティングゲームを作る」こと。

あの、ゲームセンターでしか体験できなかった3画面の没入感を、自分の手で、自分のマシンで、自分のゲームとして実現する。

「POWER TO MAKE YOUR DREAM COME TRUE」

この言葉を覚えているだろうか。

かつて、あこがれのマシン・X68000XVIが掲げたキャッチコピー。 「夢を実現する力」——あの時代、パソコンには確かにその力があった。 電源を入れれば、そこには自分だけの創造の場が広がっていた。

4つのZ80、3つのV9990、FM音源にPSGにPCM。 スペックだけを見れば、40年前のテクノロジーの延長線に過ぎないかもしれない。

だが、これは懐古のためのマシンではない。

「自分の手で、自分のゲームを作る」——その原初的な喜びを、もう一度この手に取り戻すためのマシンだ。 あのキャッチコピーが約束した「夢を実現する力」を、今度は自分自身の手で作り上げる。

Power To Make Your Dream Come True.
その実現の日は、近い。